初恋
作詞:石川 啄木 作曲:越谷 達之助
砂に腹這いになって泣きます
石川啄木の第1歌集『一握の砂』の中の短歌に、1938年(昭和13年)に曲がつけられました。
曲がつけられる前の1912年(明治45年)に石川啄木26歳にてこの世を去っています。
歌詞・歌詞の意味
歌詞については著作権が消滅しているので、記載いたします。
石川啄木が詠んだ短歌「初恋」
砂山の
砂に腹這ひ初恋の
いたみを遠くおもい出づる日
歌詞の意味
海岸の砂の上で腹ばいとなり
初恋の痛みを遠い思い出として
思いかえす日よ
啄木にとっての「砂」とは
1908年から1910年までに詠まれた短歌のうち、551首を選んで収録した啄木の第一歌集が『一握(いちあく)の砂』です。
病と戦い生活苦であった石川啄木の気持ちが綴られていると言われています。
「初恋」は551首のなかの6番目の短歌
『一握の砂』は5章にわかれており
- 「我を愛する歌」
- 「煙」
- 「秋風のこころよさに」
- 「忘れがたき人人」
- 「手套を脱ぐ時」
初恋は、第1章の「我を愛する歌」の6番目に入っています。
第1章の冒頭から「初恋」まで
我を愛する歌
- 東海の小島の磯の白砂に われ泣きぬれて 蟹とたはむる
- 頬につたふ なみだのごはず 一握の砂を示しし人を忘れず
- 大海にむかひて一人 七八日 泣きなむとすと家を出でにき
- いたく錆びしピストル出でぬ 砂山の 砂を指もて掘りてありしに
- ひと夜さに嵐来りて築きたる この砂山は 何の墓ぞも
- 砂山の砂に腹這ひ 初恋の いたみを遠くおもひ出づる日
- ・・・・・続く。
とにかく「砂」がキーになる
「初恋」のみだと、初めての失恋で浜辺で泣いている青春の1ページの情景を思い出している場面かなとも感じますが、
膨大の短歌集の1部であり、その周辺でも多くの「砂」が出てきます。
また、涙・家を出る・錆びたピストル・砂の山・墓・・・
文学で身を立てようとした啄木は、経済的にも成功できず、病と戦い、生活苦で辛い生活を送っていたそうです。
そんな彼が「砂」を使って何を表現しているのか。
一握りの砂=ほんのわずかな量の砂 ですが
啄木自身の心を「砂」に置き換えているのかもしれません。
歌唱ポイント
甘酸っぱい初恋の思い出ではなく、辛い人生を振り返っているような気がします。
心の中の闇を出すような気持ちで、ああ〜〜あああ〜〜〜といきましょう。
リズムがたくさん揺らぎます。
楽譜上の拍子は、4/5→4/4→4/3→4/4→4/5 と変化していきます。
作曲としてあえて拍子を変えているわけです。
こんなめんどくさい書き方をあえてしているのですから、意味があるはず。
この曲が作られたのは、啄木が亡くなった後です。
本人はこの素晴らしい歌曲の存在を知りません。
きっと、作曲の越谷 達之助は、啄木の感情の揺らぎや心の不安定さを表現させたかったのではないでしょうか。
そんな複雑な気持ちを、十分に声に乗せられるといいなと思います。