花嫁人形
作詞:蕗谷虹児 作曲:杉山長谷夫
花嫁御寮は、なぜ泣くのだろう
1924年(大正13年)に雑誌『令女界』2月号に詩と絵が掲載されました。
歌詞
※著作権消滅しているので、歌詞を掲載します
- 金襴緞子の帯締めながら 花嫁御寮はなぜ泣くのだろう
- 文金島田に髪結いながら 花嫁御寮はなぜ泣くのだろう
- あねさんごっこの花嫁人形は 赤い鹿の子の振袖着てる
- 泣けば鹿の子のたもとが切れる 涙で鹿の子の赤い紅にじむ
- 泣くに泣かれぬ花嫁人形は 赤い鹿の子の千代紙衣装
歌詞の意味
今ではあまり耳にしない言葉がたくさん入っている歌詞ですね。
細かく解説していきます。
各言葉の意味
金襴緞子(きんらんどんす)
金蘭=金箔を使って紋様を織り表した「紋織物」のこと。
緞子=金箔が入っていない紋織物。
金蘭・緞子、どちらも高価な織物のことですね。
花嫁御寮
花嫁を敬ったり親しんで呼ぶ言葉。
文金島田
女性の髪型のひとつです。
現在では花嫁の髪型として用いられていて、とても優美で華やかです。
あねさんごっこ
人形を用いた遊び。お姉さんごっこ、おかあさんごっこ、おままごととも言う。
赤い鹿の子
子鹿の背中にあるような、斑点を並べた模様を「鹿の子模様」といいます。
振袖
今での成人式などに着る「袂が長い着物」のこと。
未婚の若いうちしか着れないものとされています。
たもと(袂)
着物の袖に垂れ下がっている部分。
袂が切れる?濡れる?
この曲の原詩は「袂が切れる」です。
いつしか結婚式で歌われるなどで広く知られていった曲です。
結婚式で「切れる」という不吉な言葉は使わないようにするために、たもとが「ぬれる〜」♪ に歌詞が変更されたようです。
袂が切れる、の謎
紙人形の袂が涙で濡れて切れてしまうのか?
和紙で作られた紙人形が、たかが涙の水分だけで切れるような弱々しいものではないはず。
袂が切れる、と言う言葉の意味を探していると「袂を分つ」に辿り着きました。
袂を分つ=別の道に進む、決裂する、関係を絶つ、絶縁する・・・
昔の結婚は、親が家の存続のためや家族が食べていけるようにするために、本人の承諾なく勝手に決めてくるものでした。
「袂が切れる」とは、この結婚のご縁が切れてしまう、という意味かもしれません。
歌詞全体の解釈
上記の単語の意味を踏まえて、歌詞の意味を書いてみたいと思います。あくまで筆者の想像です。
1番2番は、子供が離れた場所にいる花嫁さんをみているのでしょう。
①金襴緞子の帯締めながら 花嫁御寮はなぜ泣くのだろう
➡︎豪華な着物を着ているのに、なぜ花嫁さんは泣いているの?
②文金島田に髪結いながら 花嫁御寮はなぜ泣くのだろう
➡︎文金高島田に髪を結い上げて綺麗なのに、なぜ花嫁さんは泣いているの?
3番からは、もしかしたら花嫁さん目線かもしれません。
自分をみていた子供がもっている和紙の人形が気になったのかも。
その人形は振袖をきているので、「昨日までの未婚の自分」に重ねているのかもしれません。
③あねさんごっこの花嫁人形は 赤い鹿の子の振袖着てる
➡︎あの子が持っているおままごとの花嫁人形は、赤い鹿子模様の振袖を着ていて、まだ嫁ぐ前なのね。
④泣けば鹿の子のたもとが切れる 涙で鹿の子の赤い紅にじむ
➡︎もし私が泣いたら、この縁談はなくなり、実家と嫁ぎ先とが絶縁してしまうかもしれない。あの子にも悲しい思いをさせてしまうかもしれない。(あの子が泣いたら涙で和紙の模様が滲んでしまう)
⑤泣くに泣かれぬ花嫁人形は 赤い鹿の子の千代紙衣装
➡︎泣きたいけれど我慢している私は、あの花嫁人形と同じなのね
・・・・・ううう、難しい。
どうも自分の中でスッキリまとまらないまま書き綴ってスミマセン。
4番の意味を考えていたら、「あの子」は花嫁の身内かも?と思ってきました。
自分が泣いたら、鹿の子の人形にも涙がたれて色が滲むようなので。
歌詞を変えたとしても、結婚式のこの曲を起用していた(それも定番曲だったらしい)なんて、
本人たちの意思で幸せな結婚式を行う現代では考えられませんね。
昔の嫁入りに関連する歌は、ほぼ泣いているか無になっています。
当時は家のために身売りされているようなものですから、悲しいものだったことでしょう。
歌唱ポイント
1番2番は、子供の無垢な気持ちで「どうしてないてるの?」と遠くから見ている感じ。
ねえねえ、なんで泣いているの!!と聞きに行くわけではなく、話しかけていけない雰囲気を感じ取っているような距離感ですね。
3番からは、目線は大人かなと思っています。
深い悲しみを悟られないように、歌えるとよいかもしれません。